型がなければ新作はただの「型なし」
「型があるから型破り。型がなければ型なし」。勘三郎の叔父の至言です。「型」とは、代々の歌舞伎役者が演じる中で培ってきた演じ方や知恵といえばよいでしょうか。古典を演じる中で型を身につけているからこそ、新作をやると「型破り」なすごい歌舞伎になる。型がなければ新作はただの「型なし」、つまり歌舞伎ではないということです。
だから、新作をやるためには古典をやらなければいけない。もちろん型だけを学ぶのではなく、そこに感情や役柄を乗せなければなりません。一生かけて勉強していくことです。
お客さまには、歌舞伎の匂いがする新作、型がちゃんとある新作を入口に、古典の世界に足を踏み入れていただきたいと願っています。
古典でやってみたい役はたくさんあります。「弁天娘女男白浪」の弁天小僧は小さいころからあこがれていました。(尾上)菊五郎のおじさまの映像は擦り切れるほど見ました。「仮名手本忠臣蔵」の五、六段目の勘平も挑戦したい。(片岡)仁左衛門のおじさまさや幸四郎のお兄さんの当たり役、「女殺油地獄」の与兵衛もやりたい。美しい娘に扮したものの、ばれて「知らざぁ言ってきかせやしょう」とたんかをきる若者、恋人との密会でお家の大事に加われなかった若い武士、お金に困って罪を犯してしまう放蕩息子……。いわゆる力強い立役とは違う役です。2人の兄は線の太い役柄が多いですが、兄たちとタイプが違う僕だからこそ、このような役をやって別の方向を追求したいと思っています。