松竹から「『新選組』をやります」と連絡をいただき
『新選組』は1963年に月刊漫画雑誌『少年ブック』(集英社)に連載された。近年、『ワンピース』『NARUTO』など漫画原作の歌舞伎が登場しているが、手塚漫画は初。歌之助演じる深草丘十郎と親友・鎌切大作の友情を中心にドラマは展開する。大作を演じるのは中村芝翫の二男で兄の中村福之助(24)。丘十郎は、大作だけではなく近藤勇、土方歳三、沖田総司ら新選組隊士や坂本龍馬との出会いを通じて視野を広げ、成長していく。原作を読むと、年頃はもちろん顔やキャラクターは歌之助と福之助にあてて書かれたかのようだ。芝翫の姉と中村勘三郎(2012年死去)の息子たちの中村勘九郎が近藤勇役、中村七之助が土方歳三役で出演する。
5月の終わりに松竹の方から「『新選組』をやります」という電話をいただきました。最初に聞いた時、歌舞伎座での主役ということにまず驚きましたし、世界中で愛されている《漫画の神様》手塚先生の作品ということでとても嬉しかったです。コロナで歌舞伎も公演中止を余儀なくされたりして大変でした。そのような中で、この新作を出すことには大きな意味があると受け止めています。
僕が主役に選ばれたのは、勘九郎の兄の導きです。コロナ感染拡大前の2019年12月、勘三郎の叔父の七回忌の法事後、食事をご一緒しました。その時、「こういう漫画があるのだけれど、どう思う?」と『新選組』をすすめられました。自分は40歳目前で難しいけれど、歌之助と福之助がやればいいと。読んだらすごく面白かったのですが、当時の僕にとってはまだ夢物語でした。2021年12月、またご一緒した機会に勘九郎の兄は「本当に『新選組』を上演したい」「深草丘十郎はお前じゃないとできない」と言ってくださいました。その導きで、夢物語が現実となったのです。
僕は歌舞伎が大好きです。年々大きな役をやらせていただく中で「やりたい」という強い気持ちが増すと同時に、歌舞伎をやる怖さ、主役を務める怖さを感じながら成長してきたような気がします。丘十郎も内気な性格だったのがだんだん男らしくなり、一つのものをつきつめていく。通じるものがあります。
僕は普段から自分に自信がないほうなのですが、勘九郎の兄が僕に託してくださった気持ちに応えたいです。