手塚(※塚の字は正しくはてんありの旧漢字です)治虫原作の歌舞伎『新選組』で深草丘十郎(右)を演じる中村歌之助さん (写真提供◎プントリネア 撮影:荒木大甫〈左〉 松竹株式会社〈右〉) 
手塚治虫の漫画『新選組』が初めて歌舞伎化され、東京・歌舞伎座の8月納涼歌舞伎で上演される。父の仇討ちのため入隊した主人公の若き剣士を演じるのは、中村芝翫の三男、中村歌之助。20歳で大舞台の主役を務めることになった歌之助は情熱をたぎらせている。新作歌舞伎『新選組』を今回限りの上演で終わらせない。100年後にも上演される古典にしたい--。(構成◎山田道子)

松竹から「『新選組』をやります」と連絡をいただき

『新選組』は1963年に月刊漫画雑誌『少年ブック』(集英社)に連載された。近年、『ワンピース』『NARUTO』など漫画原作の歌舞伎が登場しているが、手塚漫画は初。歌之助演じる深草丘十郎と親友・鎌切大作の友情を中心にドラマは展開する。大作を演じるのは中村芝翫の二男で兄の中村福之助(24)。丘十郎は、大作だけではなく近藤勇、土方歳三、沖田総司ら新選組隊士や坂本龍馬との出会いを通じて視野を広げ、成長していく。原作を読むと、年頃はもちろん顔やキャラクターは歌之助と福之助にあてて書かれたかのようだ。芝翫の姉と中村勘三郎(2012年死去)の息子たちの中村勘九郎が近藤勇役、中村七之助が土方歳三役で出演する。

5月の終わりに松竹の方から「『新選組』をやります」という電話をいただきました。最初に聞いた時、歌舞伎座での主役ということにまず驚きましたし、世界中で愛されている《漫画の神様》手塚先生の作品ということでとても嬉しかったです。コロナで歌舞伎も公演中止を余儀なくされたりして大変でした。そのような中で、この新作を出すことには大きな意味があると受け止めています。

僕が主役に選ばれたのは、勘九郎の兄の導きです。コロナ感染拡大前の2019年12月、勘三郎の叔父の七回忌の法事後、食事をご一緒しました。その時、「こういう漫画があるのだけれど、どう思う?」と『新選組』をすすめられました。自分は40歳目前で難しいけれど、歌之助と福之助がやればいいと。読んだらすごく面白かったのですが、当時の僕にとってはまだ夢物語でした。2021年12月、またご一緒した機会に勘九郎の兄は「本当に『新選組』を上演したい」「深草丘十郎はお前じゃないとできない」と言ってくださいました。その導きで、夢物語が現実となったのです。

僕は歌舞伎が大好きです。年々大きな役をやらせていただく中で「やりたい」という強い気持ちが増すと同時に、歌舞伎をやる怖さ、主役を務める怖さを感じながら成長してきたような気がします。丘十郎も内気な性格だったのがだんだん男らしくなり、一つのものをつきつめていく。通じるものがあります。 

僕は普段から自分に自信がないほうなのですが、勘九郎の兄が僕に託してくださった気持ちに応えたいです。