しっかりとした足取りで歩く父

認知症でも失われないユーモア

事故前は、父は車でスーパーに行って、できあいの総菜や弁当を買うことで、食生活を自力で賄うことができていた。父の一人暮らしを支えるのは、一人娘である私の役目だと思い、洗濯や掃除は私が通いでしていた。

認知症になってからは、食事作りや通院、入浴の世話だけでなく、見守りと話し相手が私の重要な役割だ。時間的な負担が大きく、私の仕事に支障をきたすことも多くなってきた。ところが、ありがたいことに、切羽詰まった状態になる前に、私の亡くなった弟の妻である義妹が、手伝ってくれるようになった。

義妹は近くにいるため、朝、父の安否確認をして、食卓テーブルに目玉焼きとサラダをセットしてから仕事に出かける。朝は義妹、夕方からは私が世話をするパターンが定着してきた。

父の状態は、要支援から要介護に進み、福祉の相談をする相手は、地域包括支援センターから在宅ケアセンターの介護支援専門員に変わった。介護支援のプロの提案で、父に合うデイケアサービスが見つかり、週に一度通うのが楽しみな様子だ。

本当は、父が利用する前に施設見学に行きたかったのだが、コロナ禍では、利用者以外は立ち入れないことになっていた。父が帰宅したら、その日の様子を聞くのが、最近の私の楽しみだ。

「今日は何をしたの?」

ところが、父の返事は素っ気ない。

「何もしなかった」
 

「え? お風呂に入ったり、体操したりしたでしょ?」
「あぁ、そういえば、風呂には入った。体を洗ってくれるから、気持ち良かった。サービスいいよな」

施設で入浴支援を受けているとは捉えず、単に親切にされていると思っているらしい。