昭和の時代は、会社主催で運動会や海水浴等のレクリエーション大会があった。子どもの頃に何度かお会いしたことのある方々が、集合写真に並んでいる。父の思い出を共有できるのは、一人娘である私しかいない。

明るく思い出話を始めると思いきや、父は亡くなった人に、赤いボールペンで小さく×印を付け始めた。

「この人もいなくなった……この人もいなくなった……」

前列にいる人たちは、父と同期か先輩の方ばかりだ。全員に赤の×が付いてしまった。私は慰めにまわる。

「それは、寂しいね」

父はしょげて、肩を落としてつぶやく。

「うん、寂しい。知っている人が、誰もいなくなった」

親、兄弟、妻、友人。大切な人が誰もいなくなるのは、寂しさを通り越して、恐怖すら感じるのではないだろうか。

私も父のように長生きしたら、同じように、この世に一人取り残される寂しさを味わうのだろう。将来の自分を励ます気持ちも込めて、私は必死で言葉を探した。

「大丈夫、パパには私がいるし、孫もひ孫もいるじゃない」

すると父は、ニコッとかわいい微笑みを浮かべて言った。

「そうだな。俺は幸せだ」

認知症であることを前提に、父の気持ちに共感して寄り添えば、笑顔を引き出せることが、ようやく私にもわかってきた。