知り合いがいなくなる寂しさ

父は事故後に体調不良が続き、高血圧の治療をしている。脳神経内科も受診して、記憶を司るところに機能していない部分があることがわかった。「長谷川式認知症スケール」の検査結果を総合し、認知症と診断された。

父の認知症は、新しいできごとは忘れてしまうが、昔のことは不思議な程よく覚えているのが特徴的だ。

「おまえに見せたことのないアルバムを見つけた」

そう前置きして、私の前で毎日開くのは、父が勤めていた会社の1980年の記念アルバムだ。写真の中の父は、仕事に脂ののった生き生きとした顔で映っている。

「この人は、お酒が強かった」「この人とは、よくゴルフをした」等、当時の同僚たちの特長を、父は細かく、懐かしそうに説明してくれる。

父が認知症だとわかったことにより、私の関わり方が自然に変わってきていた。よく言えば優しくなったから、「それ、昨日も見たよ」という言葉は飲み込む。初めて見て興味を持ったふうを装って父に言う。

「パパ、懐かしいね。私もそのおじさんのこと、覚えているよ。海水浴に行くバスの中で、膝にのせてくれたの。がっしりとした体の方だったね」