額や胸を撃ち抜く「見せしめ」が始まって
「僕たちは市民を撃つよう、最初から命じられていたんです。そんなことは嫌だった」。ミャンマー東部と国境を接するタイ北西部メソトに避難している元警官(23歳)の目には、デモに参加する市民で埋め尽くされたヤンゴン中心部の風景が焼き付いている。
「あんなに多くの人がデモをするのは初めて見た。なんだか嬉しかったな」。彼は同僚と職場から間もなく逃走する。デモに参加する若者たちの額や胸を撃ち抜く「見せしめ」が始まったからだ。
デモの中核だった「Z世代」と呼ばれる10代や20代はこの頃、「国連が助けに来てくれる」と信じていた。民主主義を求める非暴力運動が武力弾圧されているのだ。国際社会が看過するはずがない。
古い世代のように「軍政下でなんとか生きる」のではなく、自由と人権、未来がなければ生きる意味がない――。若者たちは、被弾した時のために血液型を腕に記し、家族に向けたメッセージを記した紙を携え、声を上げ続けた。
だが助けは来なかった。4月9日、少なくとも80人の市民が国軍に殺害された、バゴーでの虐殺事件が決定打となった。「自分たちで戦うしかない」。生き残った若者たちは、約200キロ離れた東部の森へ向かった。少数民族武装勢力、カレン民族同盟(KNU)の支配地域である。そこでは、国軍を離脱した将校や武装勢力司令官が、基礎的な軍事訓練を施していた。