2020年11月の総選挙で投票した後、「投票済み」のインクがついた指を記念撮影したエリースとスコーピオ

近隣諸国の若者たちと連携して対抗

同じくKNUの森で一時、避難生活を送っていたエリース医師と妻のスコーピオ医師(ともに仮名)は、85年生まれの37歳だ。「国軍は守護者である」と学校では教えられた。「国軍が戦っている少数民族は悪なのだと、教えられるままに信じていた」という。

国軍は都合の悪い情報を隠し、歴史を歪曲している。エリースがそれに気づいたのは、研修医だった00年代後半である。07年、ミャンマーでは市民の敬意の対象である僧侶が兵士に射殺された。

08年、大型サイクロンが直撃した。国連によると約14万人が死亡・行方不明となる大惨事だったのに、軍政は救助活動をせず、諸外国からの支援物資は市場で売られた。「医師は命を救い、兵士は国を守る。そう信じていたのに」。

16年、民主派のNLD政権下で社会が変化していくのを2人は実感した。病院では患者に無料で薬を処方でき、教育は「命令に従う」から「思考力を育てる」ものに。民主主義を育てようと、エリースは知識人を招き意見交換をするイベントを開いた。

20年11月の総選挙で、二人はNLDに投票した後、5歳の息子と記念写真を撮った。「軍政時代に戻ることは二度とない」。二人は、明るい未来を疑わなかった。

わずか5年の民主化時代がここまで市民を変えると、誰が想像しただろうか。強大な武力を前に沈黙していたかつての軍政時代の市民では、もはやなかった。2人をはじめ若者たちはインターネットを駆使し、近隣諸国の若者たちとも連携してクーデターに対抗した。「団結して助け合って、とても幸せな時間だった。勝利が信じられたの」。妻のスコーピオは振り返る。