2021年2月1日にミャンマー国軍がクーデターを起こし、全世界を驚かせた。民主主義体制の維持を求める市民の抵抗運動が全土に広がるも、軍による攻撃は激化。内戦状態が続くミャンマーは今も人道危機のさなかにある。軍と戦う道を選び活動を続ける若者たちの声を、ミャンマー国境にほど近いタイ北西部の街で取材した
抵抗する人々を「テロリスト」と……
ミャンマー南部の古都バゴーに住むイイアウン(37歳)が携帯電話の呼び出し音で目を覚ましたのは、まだ薄暗い午前4時のことだった。「クーデターよ」。電話の向こうで友人が叫んでいた。
2021年2月1日、ミャンマー国軍はクーデターを起こし、アウンサンスーチー国家顧問ら政権幹部を拘束した。民主国家への道は、わずか5年で閉ざされた。「泣きたかった」とイイアウンは振り返る。しかしその後の展開を、国軍は予想していなかった。若い世代を中心にした抵抗の声が、大きなうねりとなって全国に波及したのだ。
それから1年半。国軍は抵抗する人々を「テロリスト」と呼び今なお激しく弾圧している。焼殺、拷問、射殺、空爆。残虐さはエスカレートする一方で、殺害された市民は2200人を超えた。
政治と経済の複雑な利害が絡み合い、国際社会は手をこまねくばかりだったが、その関心は今やロシアによるウクライナ侵攻に集中し、ミャンマー市民の苦しみは顧みられずにいる。
自分たちは楽観的すぎた
ミャンマーは130以上の民族がいる多民族国家だ。人口約5400万人のうちビルマ族が70%を占める。英国植民地時代、日本の占領時代を経て、1948年に独立した。62年、国軍はクーデターを起こし全権を掌握。
その後の50年間にたびたび起きた反政府の動きを武力で押さえ込んできた。軍政下で、市民は世界から孤立していた。報道は厳しく規制され、軍や警察に情報を提供する「スパイ」の存在に怯える市民は、自宅でも声を潜めて話していたという。