彬子女王 その頃、ドナルド・キーン先生とご一緒する機会があったのですが、先生はその場にいらした方に『源氏物語』について愛情と情熱を込めてお話ししてくださいました。わたくしはここでも、黙って聞いていることしかできず、とても恥ずかしく思ったのです。

わたくしと話した方が、今後わたくし以外の日本人と会わないかもしれないと考えると、自分の言うこと、することには責任を持たなければいけない。だからこそ、日本のことをきちんと勉強したいという気持ちが芽生えました。

酒井 2度目の留学では日本美術史を研究され、大英博物館の日本美術コレクションを通じて、海外の人の日本美術への興味の変化をテーマに書かれた博士論文で博士号を取られたのですね。

彬子女王 最初の留学で、オックスフォード大学マートン・カレッジの学長から、「チュートリアル(個別講義)で日本美術について学んでみませんか」とお誘いを受けました。その授業の中で、「浮世絵はどういうふうに見るものなのか」という質問を受けたことが大きな転機となったのです。

酒井 どういうふうに、とは。

彬子女王 ヨーロッパでは、絵画や版画は壁に飾ることを前提に作られています。ですが浮世絵は、歌舞伎役者のブロマイドのようなもの。雑誌の切り抜きを貼るような感覚で壁に飾ることはあったかもしれませんが、多くの場合は、しまってあるものを時折開いて見るようなものでした。──と、研究した今は説明できます。(笑)