「お話を伺った宮邸の一室では、お父さまのお写真が、優しく彬子さまを見守っておられました」(酒井さん)

酒井 留学記『赤と青のガウン』では、博士号を取るまでの並々ならぬご苦労をお書きになっておられました。

彬子女王 充実した毎日ではありましたが、もう二度とやりたくはないというのが本音です。(笑)

酒井 今、葛飾北斎や伊藤若冲などの展覧会は大変な人気です。専門家のお立場から、日本美術をより楽しめる鑑賞法があればお教えください。

彬子女王 わたくしは日本美術のコレクターについて研究しておりましたので、作品そのものよりも、どういう経緯で描かれ、誰の手に渡り、美術館に収められたのかという来歴に興味をひかれます。家宝だった絵画を手放した経緯など、背景にある物語にワクワクしてしまって。

作品につくキャプションに来歴が書かれているものもございますから、ご覧になってはいかがでしょうか。表具もぜひ見ていただきたいですね。書画を掛け軸や屏風などに表装するとき、作品に合わせて最高級の和紙を選んだり、当時珍しかった海外の織物などを使って仕立てたりしていますから。

酒井 伊藤若冲のコレクターで知られるジョー・プライスさん宅をお訪ねになったときは、自然光が入る時間でなければ作品を見ることができなかったそうですね。

彬子女王 プライスさんは「絵師は蛍光灯の光の下で絵を見られることを想定していないのだから、自然光で見なければフェアでない」とおっしゃり、その通りだと思いました。

屏風も、実際に使われていたように蛇腹に立てることで作品が立体的に見えたり、正座したときの視線の高さに重要なモチーフが描かれていたりと、当時の感覚に戻って鑑賞することはとても大切なことだと教わりました。