新聞記者として社会問題を取材してきた永田豊隆さん。精神疾患を抱えた奥さんの介護体験をウェブメディアに執筆、それに加筆した『妻はサバイバー』をこのたび刊行しました。摂食障害となって衰弱した奥さんでしたが、主治医には過食嘔吐を隠し続け、精神科を受けることを強く拒否し続けていたそう。その根底にあったものとは――(構成:古川美穂 写真提供:永田さん)
精神疾患を抱えた妻との20年
私は新聞記者として、これまで貧困や差別など社会問題について取材してきました。摂食障害やアルコール依存症に苦しむ私の妻のことも、いつかは書きたいと考えていたのです。社内報で介護体験の手記を書いたのをきっかけに、同僚から提案されて「朝日新聞デジタル」というウェブメディアで執筆することに。2018年に配信した連載は多くの反響をいただきました。その後、4年をかけて加筆したのが今回の本です。
妻の心身に異変が現れたのは20年前のこと。あるとき彼女が大量の物を食べてはトイレで吐いているのに気がつきました。
当時私は34歳でキャリア10年目の新聞記者、妻は29歳の専業主婦。摂食障害という病名は聞いたことはあるけれど、まさか自分の妻がそうだとは考えもしませんでした。
症状が悪化し、妻は食べ吐きを隠さなくなります。栄養不良で衰弱し、疲労感、腹痛、発熱などの身体症状に次々とみまわれました。しかし、体を治すための入退院を繰り返しながらも、彼女は主治医に過食嘔吐のことを隠し続けたのです。
何度も精神科を受けるよう説得しましたが、返ってきたのは「鉄格子のついた病院に閉じ込めるつもり?」という強烈な拒否反応だけ。吐くために買う食料は1日1万円を超え、私の給料とボーナスでは賄いきれず、破産寸前でした。
後に臨床心理士のカウンセリングで明らかになるのですが、妻の摂食障害の根底には、幼児期の虐待や成人してからの性被害のトラウマ(心的外傷)による複雑性PTSDと解離性障害がありました。過食嘔吐は彼女にとって生きるための、「たった一つの逃げ込める部屋」だったのです。