何より必要なのは、相手が「この人にだったら自分のことを話していいな」という心理的安全性を確保すること(写真提供:PhotoAC)

また、「未来軸」で観察したい場合には、「自分の子どもが20歳になるまでには、もっと豊かさを実感できる社会にしたいんだよね」などと自分のビジョンを共有しつつ、「どういう社会が、豊かさを実感できる社会だろうね」と自然と話を振りながら、相手が描く理想的な未来像を聴き出す。

それは、雑談といいながらも真剣勝負です。自分が持つすべての集中力と好奇心を、注ぎ込む。私はいつも、自分と相手にだけスポットライトが当たっていて、周辺の世界はブラックアウトしているイメージを持ちます。そういう状況の中で、前傾姿勢で、「相手の新しい一面」を内面から探ろうとする。

「聴く」という行為のスペシャリストに、ノンフィクション作家の小松成美さんがいます。中田英寿さん、イチローさん、YOSHIKIさんなど、超一流と呼ばれる人たちから絶大な信頼を得て、膨大なインタビュー時間を経て、数々のベストセラーを生み出してきた方です。小松さんは相手から話を聞くときに、心の中でこう呟(つぶや)くそうです。

「今この世界で、あなたのことを一番知りたいのは私です」

このような姿勢で挑むからこそ、質問にも熱が入り、相手の魅力をひと欠片(かけら)でも見逃さないんだ、という迫力が宿るのです。

私たちは「聴く技術」をテーマにしたビジネス研修などで、「相槌の打ち方」「相槌の使い分け方」「相手が言ったことをおうむ返しする」といったテクニックを教わります。でも、小松さんがおっしゃるのはそれ以前の、「聴く姿勢」のお話です。

「あ、この人はちゃんと私の話を受け止めてくれているな」と相手に感じさせる人にだけ、開かれる言葉があります。何より必要なのは、相手が「この人にだったら自分のことを話していいな」という心理的安全性を確保することなんです。