夫婦の真の姿

夫婦というのは傍から見ていても真の姿はわかりません。側からは「おしどり夫婦」などと称されていても、そんな自覚をもっている当事者たちが果たしてどれだけいるのでしょうか。

『歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

世間では人々への生きるモチベーションとして、何かと理想化された素敵な夫婦や家族の存在のアプローチ力が動いていますが、そうした“理想”という壁が立ちはだかっているせいで「うちはダメだ」と思ってしまう夫婦も増える。

有名人が浮気などの失態を犯せば目障りな害虫の如く人間失格の烙印を押されて排除されてしまうのもそのためでしょう。

世の人々は日々「別離などあり得ない、いつまでも仲睦まじき理想の夫婦、理想の家族」を目指そうと必死になっているわけです。

イタリアのようにカトリックの倫理上離婚が簡単にはできない国だと、必然として長く続いている夫婦はたくさんいますが、そうすると、お互いにあらゆる価値観の差異の溝があっても、年月によって埋めていくことができるようにもなっていきます。結婚当初抱いていた“理想”は、諦観や達観に置き換えられていくわけですが、家族とは所詮そんなものだという意識が根付いているとも言えるでしょう。

なかにはもちろん我慢や妥協もせず仲良くし続けて何十年、という夫婦もいるとは思いますが、彼らだって潜在意識下で相手に譲歩したりしながらやり繰りしてきたはずです。