講義に杉村春子先生がいらしたとき、お住まいが文学座アトリエの敷地内だから、サンペイって名前の狆(ちん)を抱きながら僕らの前にすわっていらした。僕は最前列のこわれかけて沈み込むソファーにいたから、ちょうど目線が先生の膝のあたりに来る。
しばらくしたら、先生がスカートの裾をスーッとお直しになったのね。僕は19だったけど、何か目線がいやらしかったんでしょう(笑)。普段は、小津映画の役々で見てるような世話っぽい感じじゃなくて、華やかな方でしたよ。もう50代くらいでしたけど。
その後、研究所から劇団に10人残るんですがね、僕はどうも落ちてたらしい。けど、芥川さんが僕の身軽な動きを見て、「ああいうサルみたいなのが一人いてもいいね」って(笑)。まぁなんとか残れたらしい。
橋爪さんの舞台は『スカパンの悪だくみ』(1974年)、『天竺徳兵衛韓噺』(77年)、『夜叉ヶ池』(78年)、『ドリスとジョージ』(83年)、そして『景清』(2016年)など、他にもかなり観ている。
中でも鮮明な印象として『天竺徳兵衛』の二役、特に打掛姿で綺麗に決めたお局役と、『景清』の堂々たる足運びの歌舞伎絵姿が、今でもはっきり目に浮かぶ。
どういう経歴がもたらしたものなのだろう。
――まず僕の舞台の経歴から言うと、六つのときだから戦後間もなく、学生演劇がよくやった『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎作)の「コペル君」という芝居。兄貴が天王寺高校で演劇やってたんで、子役に駆り出された。その中で栗まんじゅう食べる場面があるのに釣られて出たんですけどね。