演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続けるスターたち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第8回は俳優の橋爪功さん。俳優・演出家の芥川比呂志さんと出会ったことが大きな転機で、ずっと芥川さんの腰巾着でしたと語る橋爪さん。幼い頃から父親に大阪の歌舞伎座に連れて行ってもらっていたそうで――。(撮影:岡本隆史)
「あの芥川さんが憶えてくれてた!」
時折、片頬に笑いを浮かべたりしながら、ただ者ではない人物を巧みに演じる橋爪功さん。それでいて不思議な男の色気が漂って、いいなぁ、と強く印象づけられる。
文学座研究生時代から劇団「雲」、演劇集団「円」を通じて、俳優・演出家の芥川比呂志との出会いが、今日の橋爪さんを創った、と言えるのではないだろうか。
――まったくそうですね。他には考えられない。芥川さんと出会ったことが大きな転機で、あとはとりわけ目立った転機はないね。
大阪の東住吉区で生まれて、高校一年のときに父と死別、それで母親と、兄のいる東京へ。卒業の翌年に文学座が10年ぶりに研究生を募集してたんで、応募してみた。すごい倍率だったけど、合格。
最初の授業のとき、芥川さんに「橋爪君、ここを読んでごらん」って指名されて、「あぁ、あの芥川さんが僕の名前を憶えてくれてた!」と……。これにはオチがあってね、芥川さんは全員の名を覚えてた(笑)。でも僕はずっと芥川さんの腰巾着でしたね。