◆水のようにぬるい風呂で体も洗わず

これでは破産してしまう。私たちはヘルパーを断った。しかしその後も、食べものを隠す行為は続く。あるときは、溶けたバターまみれになった健康保険証や障害者手帳が出てきた。

注意すると、「お前ら、俺を殺す気か。それはそこでいいんだ。冷蔵庫に入れるな」と怒鳴りまくる。カビだらけでドロドロになった食べものを手に、父に恫喝される私の姿が窓ガラスに映っているのが見えて、哀しくなった。

困ったことは、ほかにもある。不潔になったのだ。エリート官僚だった頃は、頭のてっぺんからつま先までピカピカにしていたのに……。

今や、熱い湯は命にかかわると思い込んでいて、水のようにぬるい風呂にしか入らない。その間20分。水の音はしない。まったく体を洗わないのだ。仕方なく、私と母が二人がかりで体を洗う。こうなったのも、脳梗塞を起こしてからだ。医師によると「すべてに意欲がなくなってきているのでしょう」。

父の入浴後には、必ず浴槽に大便が浮いている。私はそれをたわしで洗い流しながら、毎回泣きたくなった。

さらに、下着を替えようともしない。そこで、やはり私たちが脱がすことになる。そんな私たちを父は「洗濯するしか能のないバカ者」と罵倒。シャツ一枚脱がすのに大騒ぎだ。

しかし、私たちが最も困っていたのは、別の問題だった。