建造軍船1隻に必要な加工前木材はおよそ500立方メートル

では、これだけの木材を確保するには、どれだけの原木が必要でしょうか。

『日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る』(著:播田安弘/講談社ブルーバックス)

まず、船を建造するには通常、切り出した原木をそのまま6ヵ月置いて「葉枯らし」をして水分を抜き、川や海から造船所に輸送したあと、また6ヵ月ほど自然乾燥させてから角材や板材に製材し、加工するので、伐採から1年は必要なのですが、それでは命令の6ヵ月後に間に合いません。

そこで高麗は、伐採・輸送に大人数をかけて期間を短縮し、かつ原木の乾燥時間を省いて生木のまま加工を始めたと思われます(ただし生木を使うとやがて曲がりや歪みが生じ、水漏れの原因となります)。木材は高麗に多いアカマツと推定されます。

東京大学の山本史郎名誉教授によれば、1805年のトラファルガーの海戦でフランス・スペインの無敵艦隊を破ったイギリスの木造戦艦ヴィクトリーは、加工前木材を8444立方メートルほど必要とし、その調達には約40ヘクタールの森林から約6000本の原木を伐採する必要があったそうです。

また、1隻あたりの木材使用量と、加工前木材(原木)の量の比率は、およそ1:2と考えられ、これはほとんどがオーク材のヴィクトリーでも、アカマツでできた高麗建造の軍船でも大差ないとみて差し支えありません。

したがって、木材使用量が約234立方メートルである高麗建造軍船1隻あたりに必要な加工前木材は、およそ500立方メートルと考えられます。