日本の皇太子が戴冠式に公式に招待

このように長年の歴史と伝統に彩られた戴冠式ではあるが、このたびの式典のために、女王自身が新たに作らせたのがドレスであった。結婚式でもドレスを担当してくれたノーマン・ハートネルが、国立肖像画美術館で歴代女王の戴冠式の衣装を綿密に研究し、女王と相談のうえで見事なドレスに仕立て上げた。

『エリザベス女王――史上最長・最強のイギリス君主』(著:君塚 直隆/中公新書)

重厚な絹の下地に、バラ(イングランド)、シッスル(アザミ/スコットランド)、シャムロック(シロツメクサ/アイルランド)、リーキ(ニラネギ/ウェールズ)、さらにはメープル(サトウカエデ/カナダ)やゴールデンワトル(アカシア/オーストラリア)など、連合王国と英連邦王国の国花を金糸・銀糸で縫い取らせた見事な図柄となった。

これらの儀式の一部始終は、修道院に列席する人々とともに、テレビ放送を通じて全国からも見守られた。日本では、明仁皇太子と美智子妃のご成婚(1959年4月)の際に、全国にテレビが普及したとされている。

イギリスでは、それに先立つこと6年ほど前の、この戴冠式のときにテレビが普及した。その戴冠式も当時のイギリスの人口の半分に相当する、2000万人以上もの人々がテレビで見ていたようである。

その明仁皇太子は、ウェストミンスター修道院で女王の戴冠式を見守ったひとりでもあった。太平洋戦争(1941~45年)で敵味方に分かれて戦った相手であったが、戦後の和解が進むなかで、日本の皇太子がイギリス女王の戴冠式に公式に招かれたのである。