3174個の宝石が使われた豪奢な冠で

ついで戴冠のために「エドワード王の椅子」に移る。この椅子はエドワード1世(在位1272~1307年)の時代以来使われており、下部に「スクーンの石」がはめ込まれていた。もともとはスコットランド国王の即位の折に使われていた石を、遠征したエドワード1世が略奪し、そのままこの椅子にはめてしまった。

以来、イングランドとスコットランドの不仲の一因ともなっていたが、略奪から700年の時を経た1996年にイギリス政府からスコットランドに返還され、現在はエディンバラ城の博物館に保管されている。ただし、次の国王が戴冠を迎える際には、そのときだけこの椅子に再びはめ込むことになる。

ここで女王はローブとストールに着替えて、君主と人々を統合する象徴とされる戴冠の指輪を右薬指にはめ、宝珠と王笏(おうしゃく)を手に持って、大主教によって「聖エドワードの王冠」を被かぶせられる。このとき参列する貴族たちはそれぞれの冠を被り、ここに女王に対して永遠の忠誠を誓うのである。

こののち、女王はすぐ近くの聖エドワード礼拝堂に移り、ここで聖餐式を受けた後に、「帝国の公式王冠(インペリアル・ステート・クラウン)」に被り換える。

聖エドワードの王冠は、チャールズ2世が威信をかけて造らせただけあり、文字通りの金無垢でできているため重さが2.7キロもある。このため小柄(140センチ台)だったヴィクトリア女王には被れず、彼女の戴冠式でより軽い(といっても1.5キロぐらいはある)帝国の公式王冠が造られた。3174個の宝石が鏤(ちりば)められた豪奢な冠で、その後も年に一度の議会開会式の際にエリザベス女王が被っていた。