実は、人工透析になると自然排尿が困難になる。そこで兄も導尿になった。排尿の管を袋につなげる方式と、管の先にキャップという蓋をつける方式がある。キャップだと袋をぶら下げて歩かなくてよいので、外出がしやすい。その代わり、一日数回トイレに行って膀胱に溜まった尿を捨てないといけないので、自主的にトイレに行けない人は難しい。

私は母にはどんな世話でもできたが、兄の下の世話は無理だと思っていた。しかし、切羽詰まるとそんなことは言っていられない。人間やればできる。しかし、本音を言えばやりたくなかった。

そして退院する兄を迎えるにあたって、あらたな問題が浮上した。退院後に階段の上り下りができるかどうか、だ。我が家は昔の建売住宅なので、一階が車庫と物置、二階が玄関とリビングとキッチン、三階が寝室になっている。つまり階段を上がって玄関に入る構造なので、階段の上り下りができないと、週三回の人工透析に通えない。そんなことになったら、家を売ってマンションに引っ越すか、兄を施設に入れるしかない。

病院のケースワーカーさんから「外階段に昇降機をつけては?」と提案があった。工事費は区から助成金が出るという。やれ嬉しやと思ったら、さらに問題が。助成金の申請に際して区の職員さんが視察に来るが、その時本人の同席が必要だと。だって入院してるのに……。一時的に退院させて、審査が終わったらまた病院に戻してもOKだというが、兄が病院に帰りたくないと駄々をこねたらどうすればいいの!?

頭をかきむしっていたら、ケアマネさんから「病院に問い合わせたんですけど、退院時には何とか階段の上り下りができると思うので、昇降機の件は、それからお考えになっても大丈夫ですよ」と電話があって、一件落着。ホッと胸をなでおろした。