夢見る帝国図書館

著◎中島京子
文藝春秋 1600円

本に助けられた人々と
個性的な老女の謎が交差して

誰もが自由に立ち入ることができ、存分に本との時間を過ごせる場所が図書館である。本と人が出会う場所である以上、そこでは日々、さまざまなドラマが起きる。国を代表する図書館であれば、なおのこと。

15年ほど前、東京・上野の「国際子ども図書館」を取材した帰り途に、フリーライターの「私」は「喜和子」と名乗る白髪の女性と出会う。小説家志望であることを彼女にうっかり明かしてしまった「私」は、なんども彼女と会ううちに、ある誘いを受ける。この図書館を主人公とする小説を書いてみないか、と。

「私」と喜和子との奇縁は、彼女をとりまく個性的な人物を巻き込んでいく。元交際相手の老教授「古尾野(ふるおや)先生」、現在の彼氏であるホームレスの「五十森(いそもり)さん」、彼女の家の2階に下宿している藝大生の「雄之助くん」。だが喜和子は突然、姿を消してしまう。物語の後半では、喜和子をめぐる大きな謎に行き着いた「私」が、探偵さながらに、その謎を解いていく。彼女は終戦直後の上野で、いったい誰と、どんな暮らしをしていたのか。

「もし、図書館に心があったなら、樋口夏子に恋をしただろう」といった魅力的なモチーフがちりばめられた「図書館を主人公とする小説」が、本文の合間に25の断章として挟まれる。永井荷風の父・久一郎をはじめ、多くの文学者や図書館人の苦闘が描かれるこの作中作は、喜和子が書き残した不思議な手記と渾然一体となり、やがてこの物語をクライマックスへと導く。

戦前から戦後にかけての時代を生きた、一人の個性的な女性の物語である本作は、本を切実に求め、図書館に助けられて生きた、多くの日本人に捧げられた物語でもある。