(撮影=木村直軌)
〈10月15日発売の『婦人公論』11月号から記事を先出し!〉
坂東武者ながらお茶目で憎めない役柄を大河ドラマで好演し、視聴者の心を鷲掴みにした坂東彌十郎さん。歌舞伎をヨーロッパにもっと根づかせたい、と夢を抱き続けるのは、新しい世界を切り開いた先輩方の姿を間近で見てきたからだった。
(構成:篠藤ゆり 撮影:木村直軌)

<前編よりつづく

この味がわからなければ、相手のことはわからない

思い出すのは、オペラの演出助手をしていた30歳ころのことです。稽古のために1ヵ月半くらいパリに滞在することになり、僕はダンサーに歌舞伎の振りを教える役目を仰せつかりました。

でもコーラスの人もダンスの人も、日本人がオペラを演出することに対して、どこか信用しきっていない部分があるんですね。どうにもうまくいかない。みんなと心を通わせるには、ダンサーのボスみたいな人と仲良くならないとダメだな、と思って、「飯食いに行こうよ」と誘ってみたんです。

いくら中学と高校の授業でフランス語を教わっていたとはいえ、通訳なしで彼と二人きり。なんで話が通じたのかよくわからないんですけどねえ。(笑)

行ったお店でオーダーを彼に任せたら、かなり匂いにクセのあるラム肉のクスクスと、渋みの強いボルドーの赤ワインが出てきた。「こいつ、オレを試してるな」と気づきました。まあ、私たちが面白半分に外国の方に納豆を勧めるようなものだったのかもしれません。