自宅とは違い、常に近くに医療のプロがいて、24時間体制でケアをしてくれるのが「医療機関(ホスピス・緩和ケア病棟)」です。そのメリットは、本人にとっても家族にとっても、何かあったらすぐに対処してもらえるという安心感に尽きます。

ただし、起床や消灯、食事の時間が決まっているため、自由度の低さはデメリットと言えるでしょう。また面会時間も限られているため、家族や親しい人と離れる時間が多いことで、不安や孤独を感じる人もなかにはいるかもしれません。

次に、「高齢者施設(老人ホームなど)」の場合。施設は民間型と公共型があり、金額もサービスも多種多様です。そのうえ、すべての施設が終末期医療や看取りに対応しているわけではないので、事前に調べる必要があります。

また、施設によって、かかる費用、雰囲気、受けられる介護ケアのレベルにかなり差があるため、合う・合わないが大きく出るのも特徴と言えるでしょう。

私が訪問医としてかかわった患者さんで、とても記憶に残っている方がいます。末期がんだった80代の男性は、入所していた高齢者施設をとても気に入っていて、そこで最期の時間を過ごしたいと考えていました。

けれど痛みがひどくなってしまい、医療機関に入院して緩和ケアを受けることに。入院しても水しか飲めないほど衰弱してしまい、それならば緩和ケア病棟ではなく高齢者施設で最期を迎えようと戻ってきたのです。

この方はお寿司が大好物で、私が緩和ケアによって痛みを和らげると、お寿司の出前をとってみんなで食べたい、とおっしゃる。施設もそれを特別に許可して、本人は2貫食べ、スタッフや入居者もご馳走になり、食後はみんなで歌を歌って楽しい時間を過ごしました。そして、男性はその日の夜にお亡くなりになったのです。まさに、最期の時まで自分の人生の選択をし、楽しむことを忘れない生き方でした。

人はどうしても、自分の死を考えることに抵抗感があります。しかし、誰にでもその時は必ずやってくるもの。終末期医療は病状や経済状況によって、先ほどの80代の男性のように途中で変更することも可能です。

まずは、「いまの自分は、終末期をどうしたいのか」とイメージするところからはじめてみましょう。自分で選択し、決めたという事実が、納得のいく最期を迎えることに繋がるのではないでしょうか。