多くの人が無理なくできる範囲で行う
21年5月にゆり子さんが出版した『ハニオ日記』は版を重ね、私たちの夢は一気に現実的になりました。ゆり子さんの発信力と私が取材で培ってきた知識を活かせば、細々とならやっていけるだろうと腹が決まったのです。
仕組み作りをするうえで参考にしたのは、私自身が愛護団体でボランティア活動をしたことのあるイギリス。イギリスでは、飼い主のいない動物は割引価格で、場合によっては無料で医療を受けることができます。
その背景には大きな動物愛護団体の存在があり、病院の経済的な負担は少ししかありません。医療を受けた犬猫は愛護団体が引き取り、飼い主を見つけます。動物の命も人間と同じ。共存するべきだからこそ、救うための仕組みが充実しているのです。
一方、日本は、自己犠牲をいとわない使命感のある愛護団体や、太田快作さんのような一部の獣医師たちが自己負担で治療にあたっているのが現状です。一部の誰かに負担が集中するのではなく、多くの人が無理なく、できる範囲で少しずつ行うことはできないだろうか。
そう話し合うなかで、日本にいる約1万人の獣医師が1年に3匹の飼い主のいない犬猫の医療ケアを引き受けてくれたら、負担も軽減できる……という発想をしました。そうなったら現時点での殺処分数(約2万匹)を超える3万匹の犬や猫の命を救うことができる……と、大きく夢が広がったのです。