「この人たち、絶望を味わっているはずなのに」

田中 :橋爪さん、今までの5年間に「回復のきっかけ」になるような出来事はありましたか?

橋爪 :僕は施設に入って最初は、誰も信じられなくて「ここにいれば良くなるよ」っていう言葉にも耳を傾けられなかった。ここまでちゃんとやるところだとも思っていなかったです。裁判が終わったらさっさと施設を出て甘い汁すすろうかなみたいなことが頭の片隅にあったのかもしれません。その考えが改められたきっかけは、施設の人たちと仲良くなった事です。「あれ?僕、この人たちのこと、すごい好きだ」ってなったのが続ける動機になりました。ある時から、施設のスタッフさんだったり、自助グループに通っている仲間たちの話がキラキラして見えたんですよ。「なんでこの人たち、たくさんの絶望を味わってるはずなのに、今こんなに楽しそうに話してるんだろう?」って不思議でした。でも「ああ、こういう風に僕もなりたいなあ」って思えたので、治療を続けられました。

田中 :自助グループには今でも行かれているのですか?

橋爪 :行っています。そこに居る仲間たちが背中を押してくれるんですよね。僕が何か芝居をしたり、こういう取材に答えたりすることが励みになると言ってくれる仲間から、僕も力をもらっているところがありますので、続けています。

田中 :自助グループであれ病院であれ、ロールモデルとの出会いは大きいですよね。

松本 :同じものを抱えた人たちと、安心できる場所で、いろんなことを分かち合う中でこそ克服できるものがあります。そこで起こる治癒は、僕ら医療の専門家が手を貸して得られるものとは違う貴重なものです。