棚には手元に残したい器や海外旅行の思い出の品などが並ぶ

一人でも大丈夫。最期はこの団地で

夫の仕事の都合で、神奈川県のこの団地に引っ越してきたのが55年前。家族5人で少々手狭でしたから、当時は子ども用の二段ベッドも入れてね。子どもが自立して夫婦だけになると、ちょうどいい広さになりました。

夫は7年前に他界。ある日、トイレを出た瞬間にバタンと倒れて。大動脈瘤でした。すぐに手術をして一命をとりとめたものの回復はせず、夫は「家に帰りたい」と言う。医師から「家で好きなものを食べさせてあげてください」と言われたとき、もう助からないのだなと覚悟しました。

介護ベッドを借り、夫はこの部屋で1ヵ月ほど寝ていたのですが、子どもや孫が見舞いに来ると嬉しそうに手を振るんです。最期も、家族みんなでベッドを囲み、夫は眠るように安らかに逝きました。

夫に寂しい思いをさせることなく、ちゃんと看取ることができてよかった。悲しいというより安堵感がありましたね。

夫が亡くなったあと、私も生前整理をしなければと、ものを少しずつ減らしています。一番悩んだのは食器です。もともと器が好きで、どれも愛着があって手放しがたい。

それで正月に家族が集まったとき、「好きなものを持っていって」と娘たちに譲ったのです。おかげで食器棚に余裕ができ、お気に入りの食器は飾るように配置し、出し入れしやすくなりました。