ボランティアスタッフが中心になって、手芸やヨガの教室を開催することも(写真提供:暮らしの保健室)

しかし、オープン当初は利用者もまばら。「ドアの前でチラシを配りながら、『お茶でも飲んでいってくださーい』と勧誘したものです(笑)」と、初期からのボランティアスタッフである吉川厚子さんも振り返る。

秋山さんの記憶に残っているのが、同じ商店街にある花屋さん一家のこと。ある日、保健室に顔を出した店主の妻から、「下咽頭がんが進行している義父に、主治医は『穴を開ける』としか言わない。どういう意味なのかわからず困っている」と相談されたのだ。

そこで秋山さんが診察に同行し、理解しやすいように説明してほしいと伝えると、「いずれ腫瘍が大きくなって水分や栄養が摂れなくなるときのために、胃ろうにする」という意味だとようやくわかった。

それ以来、夫婦は足しげく保健室へ相談に訪れるように。「病院へは行かねえ」と在宅ケアを望む父親のために、スタッフのサポートを受けながら介護ベッドや車椅子を借りるための介護保険の申請、在宅看護の手続きを次々と進めた。「そして本人の希望通り、家族に囲まれながら自宅で最期を迎えることができたのです」。(秋山さん)

もちろん自分たちで調べ、あちこち窓口を訪れて手続きすることもできるだろう。しかし時には、それが見当違いだったり、大きな遠回りになったりすることもあるはずだ。人生の終盤を穏やかに過ごすためには、比較的健康なうちから保健室を利用してほしい、と秋山さんは言う。

「必要なときに必要な情報を整理して、最後まで自分らしく生きる手助けをするのが私たちの役目。〈水先案内人〉だと思って気軽に頼っていただきたい」