SNSと多様な性行動が急増の背景に?

では、なぜここにきて梅毒が再び増加を始めたのか、に話を進めましょう。この点では、「患者の男女差」に注目すべきだと私は考えています。

実は男性の梅毒患者の場合、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染と併発していることが結構あります。両者の年代別の報告患者数を比較したのが、下記のグラフです。男性では、年代ごとの傾向が符合しているのは一目瞭然。男性のHIV感染の主原因は、ご存知のように同性間の性的接触です。つまり、梅毒も同じルートで広がっている可能性があるのです。

写真を拡大 梅毒・HIV感染者の全数報告(男性)

では、女性はどうかというと、両者の相関性はほとんど認められず、梅毒で目立つのは、さきほども述べた20代前半の患者数の突出です。そこから浮かび上がってくるのは、女性は、「若い世代が異性間の接触によって感染しているケースが多い」という実態にほかなりません。

写真を拡大 梅毒・HIV感染者の全数報告(女性)

その原因として私が立てた仮説の1つは、「SNSを利用したカジュアルセックスの広がり」です。いまさら説明するまでもなく、SNSは見ず知らずの人間同士を繋げます。もはや出会い系サイトの利用などというまどろっこしいことをせずとも、SNSで、簡単に相手を見つけられる時代になっているわけです。

特に新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、自粛生活を余儀なくされる中、SNSが一層大きな役割を果たしています。女性の貧困問題などもそれに拍車をかけているといえます。

かつてのホテル街などには、組織に属さずに、通りがかりの男と交渉して体を売る女性がたくさんいました。誤解を恐れずに言えば、SNSを介して、同じような不特定多数との性の売買が成立しているケースもあるんですね。先端技術がそうした関係性を蘇らせたとすれば、皮肉なことです。ともあれ、そのような時代環境が梅毒の現状に影響している可能性は、大いに疑ってみる必要があると思うのです。

(写真提供:photo AC)

考えられる増加原因のもう1つは、「性行動の多様化」です。病気の症状を説明したところで、「第1期では病原菌の侵入部位に初期硬結が現れる」と言いました。この硬結が唇にできることが少なくないという事実が、そのことを物語っています。

梅毒は、通常の性交のみによって感染するのではありません。口腔性交でも、相手が保菌者であれば感染する可能性があります。また、性器のみからうつるのでもありません。別のどこかの病変部位と接触した結果、感染することもあるのです。

私が行ったインターネット調査では、若い世代の女性ほど口腔性交の経験割合が高く、またその際コンドームを使うことはほとんどない、という結果が出ました。そうした行為が、この世代での梅毒患者を増加させているのは、間違いないでしょう。