数ヵ月後、Oさんがスーパーの懸賞に当選。格安でグループ旅行に行けることになり、Nさんには内緒で私たちは早朝、バスに乗って京都へ向かった。久々の遠出で天候にも恵まれ、今日は楽しもうと話していると、Oさんの携帯がバスの中でけたたましく鳴り出した。着信はNさんから。何もこんな時に、と腹立たしい。電話は長々と1時間以上続いた。

後から聞くと、くだんのお見舞いのことでNさんが激怒していたそうだ。実は、退院したOさんに、私はNさんとのやりとりを伝えていた。口止めしていたにもかかわらず、OさんはNさんに「私はあの人のことを嫌いだなんて言ってない」と話してしまったのだ。

Oさんは気のいい人だがすこし口が軽いところがあって、しばしばトラブルを起こす。帰りの車中でも電話で「言った」「言わない」の応酬が続き、私は何度も電話をしてくるNさんの神経を疑った。

バス旅行から帰るや否や、私にも電話がかかってきた。なんとNさんは、「私は彼女から一緒にお見舞いに行きたいと言われた時に断らなかった」と言う。自分が口にしたことを否定し続ける器の小ささが心から憎らしい。

私はあまり人に言い返したりしないタイプなのだが、この時ばかりは、「あなたは確かに言ったのよ、Oさんが嫌っているからだめだって」と抗議した。すると突然、いつもの金切り声が特別に大きくなって、「私は絶対そんなことは言ってないし、覚えてないから!」と叫んで、電話を切った。

これは後から聞いた話だが、電話の直後、Nさんは急に目が回りだし、その場に倒れてしまったそうだ。天井がグルグル回るので立ち上がることもできず、横になったままやっとの思いで隣のおばあさんに頼んで、布団を敷いてもらったらしい。

トイレにも行けず、バケツで用を足したという。少し元気になった頃、電話がかかってきて「あなたのせいよ!」と責められたが、私はもう何も言い返さないでおこうと思った。

Nさんとは関わるたびにストレスがたまる。私の体にも良くないから、「つかず離れず」から「つかずつかず」に変わりつつある。いまだに漏れ聞くエピソードは尽きないが、願わくば静かに暮らさせてくださいと祈るばかりである。


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