あえて私が分量を細かく示さない理由

志麻 だから、私はレシピを伝えるときには、あえて分量を細かく示さずに「目安」として伝えるようにしているんだよね。

例えば、「鶏肉1枚に塩小さじ1/2、それを弱火で30分焼く」って書いたとするじゃない?

一見、これで全部伝えているように見えるかもしれないけれど、鶏肉1枚が200gなのか300gなのか、塩が食卓塩なのか岩塩なのか、ガスコンロの火の出力がどれくらいなのか、使うフライパンの大きさはどれくらいなのかによって、仕上がりは全然違ってくる。

一律にレシピどおりにやることは本当に無意味だから、私はもっと本質的なポイントを伝えたいなっていつも思ってる。

「こういう状態の肉には、こんな塩の振り方を」だったり、「弱火の基準は、フライパンからこんなパチパチ音が聞こえてくる感じです」だったり。レシピに振り回されずに、本当に大事なポイントを知ってほしいなと思うし、そうじゃないと上達はしない。

それに「全部守らなきゃ」と頑張るのは肩が凝る。もっと肩の力を抜いて、でもおいしく料理を楽しめるように。本当に大事なことだけを伝えたいんだよね。

ロマン 私も料理をするときは「ここだけはこだわる」ってポイントを決めてるよ。

志麻 そうだよね。夫婦の間でも、お互いに大事なことだけ守れていたら、あとは許し合えると思う。ロマンが何度も調味料を片づけ忘れても、靴下を片方なくしても、服を入れる場所を間違えても、それは一番大事なことじゃないから。でも、毎回イラッとするから言うけどね(笑)。

ロマン 言うの大事だよ〜。ストレスためちゃダメ。

志麻 本当に直す気ないよね(笑)。

※本稿は、『この人と、一緒にいるって決めたなら――タサン志麻&ロマン、私たちの場合』(日経BP)の一部を再編集したものです。


この人と、一緒にいるって決めたなら――タサン志麻&ロマン、私たちの場合』(著:タサン志麻、タサン・ロマン/日経BP)


「沸騰ワード10」(日本テレビ系)、「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)などに定期的に登場し、「冷蔵庫にある食材で3時間で10品以上の極上料理を作る」という料理テクニックが評判のタサン志麻さんが、主夫として志麻さんを支えるフランス人の夫・ロマンさんとともに初めて語り下ろす、夫婦と家族関係についてのエッセイ本。2人の思い出にまつわるレシピや、志麻さんのキャリアヒストリーも収録。志麻さんファンはもちろん、志麻さんを知らなくても、「大切な人とのパートナーシップ」に関心のあるすべての人の心に響く1冊です。