なぜ老人は現金を手元に置くのか?

日本には、現在100兆円を超えるタンス預金が眠っているといいます。

なぜ、大金を家に置く高齢者が多いのか。

興味深い実験があります。トマス・ザレスキュイツという心理学者が行なった「死の恐怖とお金」についての実験です。

被験者に、死を連想するような10項目の質問をし、そのあとで2つのグループに分けて、1つのグループには本物の札束を数えさせ、もう1つのグループにはお札と同じ大きさに切った紙の束を数えさせました。

すると、本物のお札を数えたグループの人は、紙の束を数えたグループの人に比べて、死への恐怖が5分の1に減少したそうです。

地獄の沙汰も金次第と言いますが、お金は人間が本能的に抱く死への恐怖の緩衝材になっているということです。

大金は、銀行に預けるべきですが、一人暮らしで銀行も信用できないので、お金を手元に置きたいという高齢者もいます。

だとしたら、ごみとして捨てられないよう、大きめの家庭用の金庫を買ってあげて、現金も含めて大切なものは全てそこに入れておくようにしてもらう。その際は、立派な革の手帳を添え、「暗証番号は、忘れたら大変だから、ここに書いておくといいよ」と渡せば、記憶力に自信がなくなりつつある親は、意外と素直に書いておきます。

仮に、暗証番号がわからないまま認知症になったり他界されてしまっても、家庭用金庫なら、専門の業者に頼めば、すぐに開けてもらえます。

『老後の心配はおやめなさい――親と自分の「生活戦略」』(著:荻原博子/新潮社)