茶封筒に入った30万円の行方は
翌朝、まずはデイケアセンターに伯父の荷物を取りに向かった。紙袋2つ分の荷物を受け取ると、不意にセンター長から尋ねられる。「現金の封筒はありましたか?」。現金という言葉で、しんみりとした空気に緊張が走った。
「こちらでは金庫でお預かりしていたのですが、茶封筒に30万円以上入っていましたよ。病院に戻る時にお返しして、2~3日でお亡くなりになったので、使う間もなかったでしょう」と言う。私は驚きつつ、昨夜目を通した伯父の荷物を思い出してみたが、現金はなかった。センター長は気の毒そうな顔をした。
「私が病院に着いた時には亡くなる直前で、荷物もまとめられていたから、引き出しの中も空っぽだったんだよね」と、ぽつりと和美さんが言う。たかだか30万円。でも、なくなったその30万円の話は、使命感で動きまわっていた4人をどっと疲れさせた。
茶封筒を持って行ったのは、亡くなる日まで声をかけてくれた病院のスタッフかもしれない。ベッドまわりを清掃してくれた人かもしれない。病室から霊安室に運んでくれた人かもしれない。そんな考えを巡らすこと自体が疲れるのだ。
同時に、入院時の現金持ち込みに対し注意喚起されていることを考えれば、日常茶飯事なのだとも思う。それでも、風前の灯だった伯父の近くに、平気でお金を盗むような人が存在していたという事実が、体を鉛のように重くした。