翌日、伯父のアパート近くの武蔵小山の商店街をそぞろ歩いた。夕方には、互いに感謝の気持ちを伝え合い、これからもお付き合いを続けていくこと、たまには伯父を偲ぶ会で集まることを約束して解散した。

帰りの新幹線で、あのラブレターを思い出していた。88歳の男性が愛を言葉にしたことにも驚いたが、何より驚いたのは伯父の人生の最後に、最高だと感じられる8年間が確かにあったことだ。それは誰にでもやって来るものなのだろうか。恋多き伯父にだけやって来たものなのだろうか。

長い人生には楽しいことばかりではなく、悲しいこともつらいこともたくさんある。それでも、死ぬ時に幸せだったと感じられれば勝ちなのだ。人生の最後は勝ち逃げがいいに決まってる。そんなことを思いながら、窓に映る自分の顔を見た。

私にも人生最高と呼べる最後が来るだろうか。遺言書代わりにラブレターを書くことがあるだろうか。目を閉じると、目尻を下げて嬉しそうに笑う伯父の顔が思い浮かんだ。

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