(イラスト:横尾智子)
日本の高齢化に伴い、65歳以上のひとり暮らし世帯は年々増加。1980年には男性4.3%、女性11.2%(65歳以上人口に占める割合)だったものが、2015年には男性13.3%、女性21.1%とほぼ2倍に増えています。(内閣府発表『令和3年版高齢社会白書』による)そんなひとり暮らしの老人の最期は、誰に看取られるのでしょうか……。

ヨドイエマサさん(仮名・兵庫県・自営業・52歳)は、一人暮らしだった伯父の死後手続きのため、東京へ向かう76歳の母と80歳の伯母に同行。やるべきことに追われるなかで気づいたのは、人生を最高のものにする方法だったそうで――。

2人を引き合わせた奇跡の出会い

愛は時に狂おしく、時に厄介で、温かく、悲しい。時を重ねた人生の最後にも、愛に満ちた最高の日々はやって来るのだろうか。

東京でひとり暮らしをしていた伯父が老衰で亡くなった。88歳の大往生だ。

「後のこともいろいろあるし、姉さんと2人で東京まで行ってこようかと思ってね」と電話口で話す母の口調からは、まだ伯父に対面していないからか、悲しみより使命感のほうが強く窺えた。

76歳の母と80歳の伯母。要領がいいとは言えないこの姉妹だけで大丈夫だろうか。咄嗟に「2人きりだと心配だし、私も一緒に行くよ」と言い、2泊3日分の荷物をスーツケースに詰め込んだ。

東京に着くと、ホテルに荷物を置き、伯父の遺体が安置されている病院へ。棺の中で伯父は眠っていた。枕元に愛用していた中折れ帽子、足元には新しい革靴、胸元にはお気に入りだった麻のスーツに新品の淡いブルーのボタンダウンシャツ、そして横に、足を悪くしてからの必需品だったステッキが収められている。

伯父は昭和元年生まれにしては珍しい175cmの高身長で、恰幅もよく、ロマンスグレーの頭に中折れ帽子を被り、ジャケットを羽織って歩くようなおしゃれ男子だった。

穏やかな表情で眠る伯父を、姉妹が交互に覗き込んで涙ぐむ。「まあ、新しいシャツに靴まで。兄さん、本当によかったね」と、母が言葉を詰まらせた。「和美さんね」と、伯母もハンカチで目頭を押さえる。そう、この伯父を弔う旅には、もう一人の登場人物がいた。伯父の晩年の恋人、和美さんだ。