人生の最後は勝ち逃げがいい
ホテルに戻った私たちは、病院から持ち帰った伯父の荷物の中を丁寧に確かめた。デイケアや病院の説明書などに紛れて、通帳が2冊、少額の生命保険の証書などが出てきたが、茶封筒は見つからない。そんな中、クリアファイルに挟まった1枚の紙が目に留まった。
「和美さんへ」
伯父の字だ。
「あなたと出会ってからの8年間は、私の人生の中で最高の8年間でした。
2人でいろんなところへ旅行し、ともに過ごした時間は何にも代えがたい素晴らしい時間でした。
いつもあなたの優しさに触れ、明るく楽しい日々を過ごすことができました。
生まれ変わってもまたあなたと出会いたいと思うほど、あなたのことを愛しています。
あなたはこれからもあなたらしく、元気にその人生を送ってください。
今まで本当にありがとう。心からの愛と感謝を込めて。
雅之」
これは、遺書というよりラブレターだ。
「和美さん、伯父さんからの手紙!」
和美さんは手紙を読みながらうっすらと目に涙を浮かべ、何度も頷いていた。伯母と母も涙ぐみながら、「兄さん、本当に幸せだったのね」「和美さん、本当にありがとう」と交互にそう言った。
疲れが吹っ飛び、体が軽くなるのを感じた。実のところ、和美さんには申し訳なく思っていたのだ。伯父が残したものといえば、少額の通帳や保険金、愛用していた金のピンキーリングや腕時計くらいだったから。でもこのラブレターで、伯父の愛が証明され、和美さんに報いることができたのではないだろうか。
急いでコンビニでケーキを買って来て、ホテルの部屋で夜のティータイムを楽しむことにした。4人とも、このラブレターが出てきたことに乾杯したい気分だったのだ。