作家の山本一力さん(撮影:本社・中島正晶)
伯父の遺品を巡る意外な真実……。家族、人生に真摯に向き合ってきた女性たちの手記を、作家の山本一力さんはどう読み解いたのでしょうか(構成=篠藤ゆり 撮影=本社・中島正晶)

ポジティブな生き方が伝わってくる

今回、3篇のノンフィクションをそれぞれ3回ずつ読み直しました。どの作品も重たい内容で、皆さん、書くにあたってはそれなりに腹を括っているはずです。自分が経験したことを言葉にして、多くの人に読んでもらうことによって、心を分かち合う。書くことで自分が救われる部分もあるのだろうな、と感じました。

まず「88歳の伯父が残した年下の彼女へのラブレター」のヨドイエマサさん。僕はこれを読んで、亡くなった伯父さんに心惹かれました。文章から、伯父さんのダンディでカッコいい姿が想像できる。棺のなかでもお洒落な人で、麻のスーツなどは自分で手入れをしていたのだろうな、などと想像しました。

伯父さんはたぶん自分がもう長くはないと悟り、恋人に宛てた手紙を書き残した。そのとき、自分の人生を俯瞰したのでしょうね。88年の人生、イヤなこともつらいこともあっただろうけど、最後の8年間は幸福だった、と。見事です。

そして、筆者である姪御さんも、伯父さんのきょうだいであるお母さんや伯母さんも、伯父さんの恋人である和美さんのことをあたたかく迎えている。みんなでケーキを食べたり、これからも和美さんと会う約束をしたりする姿からも、伯父さんをはじめ、この一族の皆さんの人柄のよさが透けて見える気がします。

ひとつ気になったのは、伯父さんが恋人に宛てた手紙を、先にご家族が読んでしまったこと。クリアファイルに挟まれていたというから、封筒に入っておらず、つい読んでしまったのか。僕だったら、死期を察して妻に書くラブレターは、最初に妻に読んでもらいたい。それとも伯父さんは身内が読むことを想定して書いたのか、そこはわかりませんが。

文中に「和美さん、先に読んじゃってゴメンナサイ」のひとことがあると、さらにこの一族の魅力が引き立ったかもしれません。

ヨドイエさんは、自分の来し方については書いていないけれど、伯父さんの人生と自分の人生を比較し、この先も前向きに生きようとしているのでしょう。文章の裏に、そういったポジティブな思いが強く感じられました。

登場人物それぞれの人生が、二層三層に積み重なっていることを想像させ、その裏側が想像できるいい作品。読後感がとても爽やかでした。