知らない世界に触れる得がたい機会
今回選ばれた3篇の筆者は、一番年下の方が52歳で、最年長が73歳。つくづく、皆さん中身の濃い人生を送ってこられたのだなと感じました。
3人とも観念的な書き方はせず、自分の過去をしっかり見つめて、いまに至るまでの人生をしたためています。しかも皆さん見事なのは、自慢や愚痴のたぐいはなく、実体験を客観的に見つめ、実直に書いているところ。好感を抱きました。
これだけの土台と経験がある方々です。そのうえでさらに視野を広げ、世の中には知らないことがまだまだたくさんあると実感してもらえたら、きっとこの先、すばらしい人生が開けていくのではないでしょうか。いまや人生100年時代、先は長いですから。
僕自身、今回の3篇を読む機会を得たおかげで、新鮮な驚きがありました。歳を重ねるとつい、なんでもわかったような気になりがちです。でもそうなってしまうと、物事が見えなくなる。人の生き方や言葉に謙虚な気持ちで接したいと、改めて思った次第です。
この『婦人公論』の読者ノンフィクション企画は長年続いていて、毎年たくさんの応募があると聞いています。それが伝統のある雑誌の底力なのかもしれません。
100年以上の歴史を持ち、多くの作家も活躍した雑誌に、自分も応募してみたいと思っている人が大勢いる。言い換えると、雑誌の存在が励みになり、がんばってみよう、チャレンジしようと気持ちが奮い立つ。それが読者の書く力の底上げにも繋がっているのではないでしょうか。
その集大成が、今回の作品だったのではないかと思います。
手記『88歳の伯父が残した年下の彼女へのラブレター』はこちら