普通のオフィスで働いたことも

半年経ったころでしょうか。大学生の長女が、「ママ、このままじゃダメだよ。出かけよう」と声をかけてきました。気乗りはしなかったけれど、長女の気遣いに応えたくて一緒にショッピングに出かけたことを思い出します。その後も長女はなにかと私を外に連れ出し、そのうち「社会復帰したほうがいいよ」と口にするようになりました。

確かに、母子父子寡婦福祉資金貸付金の申請をするにも、働く意思を示す必要があります。そこで求人募集している受付業務などの職種に応募してみるのですが、どこを受けても片っ端から落とされてしまって。(笑)

なにせ私にOLの経験はなし、そのうえ経歴に「フジテレビ」などと書いてしまい、「ここはあなたが働くようなところじゃありません」と断られたことも。あんなに頑張ってきたのに、元アナウンサーの肩書などまるで社会の役に立たない、と気持ちがどんどん沈んでいきました。

その後、とある会社で採用され、一般事務として働いた時期があります。「元アナウンサーなら電話応対に慣れているでしょう」と言われたものの、アナウンス部でお客様の電話応対をしたことはないんですよね。しかも1年近く、娘たち以外とほとんど会話をしていなかったので、受話器をとってもパッと的確な言葉が出てこない。

それに現役時代は2時間でも3時間でも背筋をピンと伸ばしていられたのに、気づくと職場の椅子に座ったまま、腰と背中が丸まっている。駅の階段であわや転倒、ということも続いて、筋力がすっかり衰えていることに気づきました。

母の介護をしていた時期だったので、もしや私自身に若年性の認知症が始まったのではないかと真剣に悩んだこともありました。

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