息子とは楽しい時しか共にしたくない

ラン・ランさんは2019年、韓国人とドイツ人の両親を持つピアニストのジーナ・アリスさんとご結婚され、2021年1月には待望の息子が誕生しました。


今は、私自身も息子をもつ父親になりましたが、息子とは楽しい時しか共にしたくないと思っています。中国の文化には素晴らしいところがたくさんありますが、こと父親としてのスタンスについて言えば、私はアメリカ式。プレッシャーも与えたくないですし、常に息子とはあたたかな関係を結びたいと思っています。人生は短いです。息子に対してうるさく言うのは、一緒によく遊んでいるロボットのパーツを口に入れないようにということくらい。(笑)

私は、厳しかった父に「もしも僕が息子に厳しく言わなければいけないようなことが出てきたら、代わりに言ってくれない?」と言ってみました。そうしたら父は、「私は孫には憎まれたくないからごめんだよ」と言うのです。あれほどのプレッシャーを私に与えてきた父なのに、いざお願いしたら、その力を発揮してくれないなんてひどい話ですよね。(笑)

私は大の大人になった今でも父に何か言われると、幼い頃を思い出してプレッシャーに感じてしまうことがあります。それぐらい私たちの関係は濃密なものでした。でも今となっては、とてもいい関係になることができています。

私も妻もピアニストですので、息子はピアニストになりたがるかもしれません。息子に「ピアニストになりたい」と言われたらサポートするつもりです。電話一本で著名な先生のレッスンを手配することができるかもしれません。それは私が子ども時代に想像することすらできなかった恵まれた環境です。

その一方で、私と違って息子にはたくさんの選択肢があるせいで、それが逆に息子が将来を決めることを難しくするでしょう。恵まれている分だけ、たくさんの誘惑もある訳です。そして息子に周囲から尋常ではないプレッシャーがのしかかることは避けられません。

今、中国でピアニストを目指す子どもたちは、私の自伝を読んだ親たちから、「ラン・ランは5歳の時にはこれくらい練習していた」「ラン・ランは7歳の頃にはこれが弾けた」などと言われ、プレッシャーをかけられているそうです。私が息子にそんなことを言わなくても、息子の耳にはそういった話が入るでしょう。息子が、私と比べられ批評される運命にあることを気の毒に感じています。

私の父は、貧しい楽団の奏者でしたから、私は誰と比較されることもなくひたすら練習に励むことができました。私には何もなかった分、私の心は自由だったのです。

(撮影◎本社・中島正晶)