表現する者の使命
渡米して以降のラン・ランさんは、クラシック界で栄光の道を歩む傍ら、グラミー賞授賞式でハービー・ハンコックやファレル・ウィリアムスと共演、映画音楽にも携わるなどエンターテイメント界にも愛されてきました。
中国に生まれ育った私ですが、最初に影響を受けたのはアメリカのアニメーションでしたし、生まれ故郷の瀋陽の文化は中国の中でもアメリカ寄りのところがありました。瀋陽は自分のことを主張する文化がある地なので、私は中国生まれであっても、比較的簡単にアメリカに馴染むことができたのかもしれません。
アジアには自分が雄弁に語るよりも自分の作品に語らせるべきだという美学があります(“Let’s the art talk more than yourself”)。けれども欧米では自分のことを自分で語ることが重要視されていて、そこを怠ることはできません。
私は、世界各地で演奏の機会がありましたが、そういった時には現地の歴史、文化や習慣を知るためになるべく先に現地入りして学ぶようにしています。音楽に対して一つだけのアプローチをしているようでは、世界で受け入れられることはできないのです。その地の文化を学ぶことは、音楽を表現する者にとっては必要な作業だと思ってきました。
とはいえ、そんな私も多くの酷評にさらされてきました。酷評こそ自分を研鑽する肥やしと思っています。ただピアニストにとって酷評された時に大切なのは、間違った方向に行かないように注意しなければいけないということです。芸術の世界で何をしたいのか、何を追求するために演奏しているのかを見失わないようにしなくてはいけません。
私はどんな音楽であっても、表現する者の使命は「人と人とを繋ぐこと」「人の心を掴むこと」だと思っています。世界の文化を知れば知るほど、人と繋がることができるようになります。いつの日も演奏と作品を通して、人の心と心を結びつける存在であり続けたいですね。
ラン・ランさんのアルバム『ディズニー・ブック』
●1923年に設立されたウォルト・ディズニー社100周年に向けて、映画『美女と野獣』『アラジン』『アナと雪の女王』など、長年愛され続けているディズニー音楽を収録。ディズニー映画の100年の歴史をたどれる内容となっている。
2016年に上海ディズニーリゾートのグランド・オープニングで映画『アナと雪の女王』の人気曲「レット・イット・ゴー」を演奏したラン・ランさん。「13歳のとき、東京ディズニーランドを訪れ、初めて「小さな世界」を聴き、そのメロディーは一日中、そしてその後もずっと私の心に残っていました」と、長い間ディズニー音楽に影響を受けていることを語っている。今作ではピアノの多彩な魅力を伝えるため、世界トップクラスのアレンジャー陣を起用、ディズニーのメロディーの本質を保ちつつ、ドビュッシーやショパンの音色、リストやホロヴィッツの技巧を思い起こさせるアレンジに仕上げている。