クラシック界きってのスター・ピアニストが故障から復活して、ステージに戻ってきた。ラン・ランさんは、中国人としては初めてウィーン・フィルハーモニー、ベルリン・フィルハーモニーと共演したピアニストだ。北京オリンピック開会式をはじめ、国際舞台での演奏も多数、日本人のファンも多い。彼は、演奏活動だけでなく、貧困層の子どもたちの音楽教育プログラム、音楽家育成など、自身の財団活動にも力を注いでいるという。

100以上ものコンサートをキャンセルして

ハードなスケジュールで世界中を飛び回っているラン・ランは、2017年に左手の腱鞘炎を患い、1年3ヵ月もの間、表舞台から離れていた。現在は全快。明るい表情で取材に応えてくれた。


幸い、すっかり回復しました。17年はちょうど仕事が多い時期だったので、100以上ものコンサートをキャンセルしなくてはならなかったのです。その中にはベルリン・フィルやウィーン・フィルとの公演など、私にとって重要なコンサートも含まれており、とてもつらい思いをしました。日本でのコンサートも中止になってしまい、本当に残念で……。

でも、悪いことばかりではありません。「生きるうえではバランスが大切であり、何ごとも焦ってはいけない。次へ進むために準備することが重要なのだ」と学ぶ期間であったと思います。人間として成長できたし、忍耐力もついた気がしますね。そうそう、全身のエクササイズを継続して、食事に気をつけたおかげで、故障する前よりもずっと体調がよくなったんです。だから「結果オーライ」ですね。

18年7月にアンドリス・ネルソンスさんの指揮でボストン交響楽団との復活コンサートに臨みましたが、演奏中にとても感傷的になり、まるで自分が生まれ変わったような感覚がありました。それまでもピアノは大好きだったけれど、故障したことによって、どれほどかけがえのないものだったかを痛感したのです。

その後、ベルリン・フィルやウィーン・フィルとのツアーに参加できたのはとても嬉しいことでした。日本にも、18年秋にウィーン・フィルと一緒に来られましたしね。各国を巡るツアーを通じて、観客のみなさんから勇気をもらいました。