故障で再び感じた、両親の深い愛

ダイナミックな力強さと繊細さが共存するラン・ランのピアニズムは、両親の全面的なバックアップによって培われた。５歳の時に瀋陽のピアノコンクールで優勝。さらなる勉強のため、９歳で二胡奏者の父とともに北京へ移住。電話交換手の母は生活費を稼ぎ出すため瀋陽に残った。中国は厳しい競争社会で、ピアニストを目指す子どもたちは次々にコンクールに挑戦する。父はラン・ランに「ナンバーワンになる」ためのレッスンを強いた。母はとてもやさしい人だったという。

私が３歳頃の夏のある日、両親がアップライトピアノを買ってくれたのが、ピアノとの出会いでした。自宅の居間でよく母と並んで座り、演奏したり歌を歌ったりしたものです。本当に楽しくて、母から愛されていると実感する時間でした。

しかし、９歳の時、私は音楽学院に入るため、父と北京へ移ることに。厳しい父と二人きりの生活は、心細いものでした。無事入学試験に合格してからも、生活の中心はピアノ。妥協をいっさい許さない父への反発から、大げんかの末、ピアノの練習を４ヵ月ボイコットしたこともあります。

当時はまったくお金がなかったので、瀋陽に帰ることもできず、母にはめったに会えませんでした。母にとっても、私と離れて暮らすのは寂しいことだったでしょう。それでも、私の成功のために働き続け、遠くからサポートしてくれたのです。

父は「私がピアニストとして成功すること」に力を注ぎ、母は「私がハッピーであること」を常に願っていました。

17年に私の故障がわかった時、母は私が住んでいたニューヨークへやってきて、身のまわりの世話をすべてしてくれました。その後、治療のためにドイツの小さな村に長期間滞在した際には、母はわざわざ中国の食材を探して、瀋陽料理のダンプリング（蒸したり、焼いたりした小麦粉の団子）、餃子や小籠包をこしらえて、実家にいるようにくつろげる環境を整えてくれたのです。

私が故障から復帰した今、両親は瀋陽で暮らしています。以前は世界各地を巡るコンサートツアーにも母がついてきてくれましたが、今は違います。もう立派な大人ですし、一人の時間も必要ですからね（笑）。遠く離れてはいても、素晴らしい母であることに変わりなく、私にとってかけがえのない存在なのです。