苦労が絶えなかった出店直後
長年レストランの経営に携わってきた順子さんだが、アラブ社会の文化の違いや法律に阻まれ、出店直後は苦労が絶えなかったという。
「イスラム教徒の国なので、お酒はもちろん、日本料理に欠かせないみりんも使えません。照り焼きソースひとつ作るのにも、工夫が必要でした。豚肉を食べてはいけないので、ゼラチンも使えない、寿司を握るのにも手袋が必須など、とにかく制約が多くて。最初は日本の寿司職人を雇っていたのですが、こうした文化の違いがストレスだったようで、1年で辞めていきました。
カタールには従業員に必ず外国人を雇わなければならないという法律があったことから、オープン前に日本食レストランの多いタイのバンコクへ渡り、私の求める味を再現できそうなシェフを探してスカウトしていました。そのタイ人のシェフが今は『順子』の味を守ってくれています」
従業員はインド人、スリランカ人、フィリピン人と多国籍。言葉の壁もあるが、「厨房で飛び交っているのは、英語ではなくジェスチャー(笑)」なのだという。
「カタール人同士ではアラビア語を話しますが、海外からのビジネスパーソンが多いこの地域では英語がよく使われます。でも、従業員の子たちは英語がまったくできない。身振り手振りで伝えて少しずつ覚えていってもらっているという感じです。私は日常会話くらいの英語はできますが、文法なんかはめちゃくちゃ。友だちに、『順子ズイングリッシュ』とからかわれるくらい(笑)。でも、こちらに伝えたいという気持ちがあれば、受け取る側も一生懸命聞いてくれるものです」