日本はべスト16で敗れたものの、強豪を次々と倒し爪痕を残したFIFAワールドカップカタール2022。カタールのドーハは12月18日の決勝を前に熱狂が続いている。そのドーハで、10年間日本料理店を営んでいる女性がいる。東京でカタールのロイヤルファミリーに出会い縁を結び、乞われて単身ドーハに渡って『順子』を開いた。文化の違う国での出店は、料理の素材や雇用問題など、さまざまな障壁があったという。今では「日本といえば『順子』で順子さんに聞こう」と言われるまでになった南里順子さんに、今回のドーハの熱狂と、カタールという国について聞いた。(写真提供◎南里さん 構成◎野口美樹)
カタールの首都ドーハで日本料理店を営む
「日本がドイツ、スペインを破ったことで、カタール人は大いに盛り上がっていました。クロアチア戦の前日にカタール人のお客様がいらっしゃって、応援に持っていきたいのでお店に飾ってある日本の国旗を譲ってくれないかと頼まれたほど。私もクロアチア戦を観戦しましたが、白いトーブ(アラブの民族衣装)を着たたくさんのカタール人が日本へ声援を送っていました。ドーハといえば長いこと“悲劇”のイメージでしたが、それが今回“歓喜”に変わった。日本とカタールの距離もぐっと近くなったようで嬉しいですね」
そう語るのは、現在ワールドカップの興奮の最中にあるカタールの首都ドーハで日本料理店「順子」を営む南里順子さん(72)。
檜の寿司カウンターに京都から運んだという真竹が飾られる店内では、日本代表のユニフォームを着たくまのぬいぐるみがお出迎えしてくれる。
ワールドカップ期間中とあって店は大忙し。順子さんは、「カタール人のお客様はどこへやら。今はほとんどのお客さんが観光客です。日本代表の選手たちはホテルと練習場からは出られないということでお会いする機会はありませんでしたが、応援に訪れた日本人のお客様とはたくさんお話しすることができました」と話す。
解説のために訪れていた元日本代表の本田圭佑氏も、クロアチア戦後に来店したのだという。
高級ホテルやリゾート施設が立ち並び、富裕層が多く住む人工島ザ・パール・カタールに店を構える「順子」は、本格的な和食を食べられる数少ないレストランとして地元民から人気を集めている。
今年で創業10年。今もほぼ毎日調理場に立ち、寿司を握る順子さんがカタールに出店を決めるきっかけとなったのは、ある出会いだった。