現地の人々に愛されるお店を目指して

現在、『順子』を訪れる客の7割が現地のカタール人。順子さんは「カタールに出店するにあたり目指したのは、現地の人々に愛されるお店になることです」と語る。

入口はアルファベットはあるもののの、和風の店構え

「カタールは観光客やビジネスパーソンの多い土地ですが、彼らはいずれ自分の国に帰ってしまう。トレンドを追いかけて一時の注目を集めるよりも、味で勝負して二代、三代と愛されるお店にならなくては意味がないと感じていました。

でも、カタールには一昔前の日本のような村社会的なところがあり、よそ者には厳しい。また当初、お店の料理は懐石と寿司がメインだったのですが、お肉中心の食事に慣れたカタール人にとっては物足りなかったようです。日本料理とアジア料理を混同され、『トムヤムクンはないのか?』と聞かれたり、寿司といってもカリフォルニアロールしか受け入れられなかったりと、思うようにいかない日々が続きました」

そんなお店の苦境を打開してくれたのが、息子の清久さん(46)のアドバイスだった。

「海外旅行に出かけていた息子が戻ってきた時、『やっぱり日本人が食べたくなるのは、おふくろの味だよね』と呟いたのです。確かに、懐石や寿司もおいしいですが、毎日食べても飽きないのは肉じゃがやコロッケや唐揚げといった家庭料理です。『お店でもそういうのを出してみたら?』と言われてやってみると、これが好評で。

カタールでも日本のアニメは非常に人気なのですが、お客様の中には作中に出てきた料理を食べてみたいという方が少なくありません。ある時、アニメに出てくるカツカレーを作ってほしいと頼まれました。本来は豚肉のカツを使ったカレーなのでしょうが、ムスリム向けにチキンカツを載せて出しましたら、とっても喜ばれまして。それ以来、おにぎり、たこ焼き、お好み焼き、かつ丼といろいろな要望に応えてきました(笑)」

今では『順子』のメニュー数はなんと140種類を超えるのだという。順子さんのおもてなしはこれだけにとどまらない。最近は店内に東京の観光マップと路線図を用意。日本への旅行を考えるお客さんが来れば、観光スポットや旅の裏技を教えている。