同じ宝塚市でも南部と北部は別世界
元々は母がヅカファンだったので、母の勧めで宝塚音楽学校を受験したのですが、タカラジェンヌになるなら「男役」しか考えられませんでした。合格したときのうれしさは、今でも忘れられません。村の人たちもみんな喜んでくれました。夢が叶って本当に幸せな毎日だったんです。でも、幸せを思う存分感じることができていたのは、もしかしたら、私が実家から通っていたこともあるかもしれません。同じ宝塚市でも大劇場がある南部と私の実家がある北部はまったく別世界(笑)! 電車とバスを乗り継いて1時間足らずの距離なのに、かたや華やかな夢の世界、そしてかたや満点の星に虫やカエルの声に包まれた自然しかない世界という両極端な世界を行き来することで、完全にオンとオフを切り替えることができていました。「帰る場所がある」という安心感はいつも私を包んでくれていたと思います。
雪組に配属された梓さんは、宝塚の代表作ともいうべき『ベルサイユのばら』や『エリザベート』に出演。どんどん忙しくなっていき、実家から通うのが無理になってきて、近くにマンションを借りて暮らし始める。
一人暮らしは初めてだったので快適だったはずなのですが、隣に誰が住んでいるかもわからない都会の暮らしは落ち着かなかったですね。「あ、私、今何かあっても誰も助けてくれないんだわ」と思ったり(笑)。鍵を閉めていてもそわそわしてしまう。舞台に立っていてもなんとなく中途半端になっている自分を感じていました。だから自然を感じるために、月に一度は実家に帰るようにして、自分を取り戻そうとしていました。