退団後は上京して、介護の資格を取得

タカラジェンヌとして念願の男役で活躍していた梓さんだが、7年目に退団を決意することになる。

私が男役の理想としていたのが、当時の雪組トップの水夏希さん。水さんの背中を見ながらすべてを真似したいと思っていました。見た目だけでなく人間的にも素晴らしい方でした。その水さんが退団するということを聞き、だったら私もそろそろいいかなと思いました。

私は宝塚が大好きで、今でも「ヅカトーク」を始めると止まらないほど(笑)。でも自分がトップを目指したいとか、いい役がほしいという気持ちがそんなに強くなかったのかもしれません。退団してすぐに宝塚市を離れて上京しました。青春時代から慣れ親しんだ宝塚ですが、高校の時に友人たちと歩き回っていた「花のみち」も、タカラジェンヌになってからはファンの夢を壊してはいけないので、気軽に歩けない。実家の周りでも、私が戻っているときはいろんな人が「あずちゃん、帰ってるの?」と会いにきてくれる。うれしいことはうれしいのですが、退団したばかりの頃は少しそれがしんどかったので上京して、介護の勉強を始めました。私は、両親が仕事をもっていたので祖父母に育てられたんです。いずれは祖父母や両親を介護することになるんだろうし、資格をもっていて損はないだろうと考えたんです。

介護の仕事は、知らなかった世界をたくさん教えてくれました。世の中にはいろいろな環境の人がいる。私から見るとしんどい環境にいる人も幸せそうにしていることもあれば、恵まれているように見えていても文句ばかり言う人も。

人生の最期に「自分の人生は幸せだった」と思えるように、その人を変えてあげるのも介護士の仕事なのかなと思ったりしました。

それに、介護の仕事は宝塚時代の経験が大きく役に立ったんです!なにしろ男役ですから娘役を持ち上げるリフトはお手のもの。高齢者を持ち上げるなんて軽いんです(笑)。むしろ、男性の介護福祉士のほうがライバルです。体力的に「女性だから大変でしょう」と言われることも「いや、できます。やらせてください」と張り合っていました(笑)。