(イラスト:みずうちさとみ)
「記憶が消える」「人格が変わってしまう」など、認知症に恐れを抱く人もいるでしょう。でも、むやみに恐れる必要はありません。発症をくい止め、進行を遅らせるためにできることを、専門医に聞きました。(構成=山田真理 イラスト=みずうちさとみ)

「脳という臓器」の老化現象ととらえる

年齢とともにもの忘れが増えると「もしかして認知症?」と不安を覚えることもあるでしょう。不安の背景には、「一度かかったら治らない」という考えが根強くあるかもしれません。そうした偏見や恐怖心から受診をためらったり、治療を拒んだりする例は少なからずあります。

近年、がんや腎臓病、糖尿病などといった生活習慣病の早期発見・早期治療の大切さが広く知られるようになりました。早い段階で発見できれば病気が軽いうちに治療を始められ、回復の可能性も高くなるからです。

認知症についても同じことがいえます。脳を臓器の一つとみなし、老化によって機能が衰えることで認知症を発症すると考えれば、早期発見と早期治療の重要性がわかるでしょう。

認知症とは、記憶をつかさどる海馬を中心に脳の神経細胞が障害を受けることで記憶力や判断力などが低下し、生活に支障が出ている状態のこと。スペクトラム(はっきりした境界のない連続体)で進行するため、健常な状態から認知症に至るまでのグレーゾーンに、「プレ認知症」といえる前段階があります。

軽いもの忘れが始まって、自分だけが気づいている段階が「SCD(主観的認知機能低下)」。家事や仕事で処理能力や認知機能が落ちた自覚があります。

やがて周囲も気づき始める段階が、「MCI(軽度認知障害)」。もの忘れが主な症状の「健忘型MCI」は、進行すると高い割合で「アルツハイマー型認知症」に移行します。

思考力や判断力が低下し、ものごとを計画・遂行できないといった症状の出る「非健忘型MCI」は、攻撃的な性格になったり反社会的な行動を起こしたりする「前頭側頭型認知症」や、幻覚や運動機能の低下が特徴の「レビー小体型認知症」へと進行する傾向が。

近年の認知症研究では、このSCD、MCIの段階で適切な治療を開始すれば、認知症の発症や進行を遅らせることができるとわかってきました。MCIの段階になってからでも、16~41%の人が健常な状態に回復するという報告もあります。

また、自分で判断ができる間に、将来のことを家族や周囲と相談する、治療や介護の費用、住まいの安全などについて考えておく、病気の正しい知識を持つことも、不安を減らし、前向きに生活することに繋がるでしょう。MCIで不安が強くネガティブに考えやすい人の場合、5年後には8割程度が認知症に移行するというデータもあるため、準備をして不安を取り除くことも大事な対策といえます。