尊厳を守り、感情を大切にする

認知症の方と接するみなさんに知っておいていただきたいのは、病気を発症しても一個人の尊厳やプライドは消えないということ。

例えば、認知症の方がモノの場所がわからなくなった時、「あなたが盗んだ」などと言って怒り出すことがあります。これは、尊厳があるからこその言動。自分はちゃんとしているという気持ちがあり、辻褄を合わせるために作り話をするのです。

また、認知機能が低下しても、喜怒哀楽の感情がなくなるわけではありません。例えば、週末に家族で外食をした事実は忘れてしまっても、「楽しかった」という感情は残ります。逆に、排泄に失敗して叱られた時に、「悲しかった」という思いも残るのです。

ですから相手を尊重し、「楽しい」「うれしい」といった心地よい感情が残るコミュニケーションを心がけていれば、良好な関係が築けるようになる。これは認知症に限らず、人間関係の基本と言えるでしょう。

もう1つ、介護するみなさんに心がけていただきたいのは、家族の認知症を隠さないこと。近所の人に知られたくない、お世話が大変という思いから、認知症の方の外出をいやがる場合が少なくありません。

けれど、できる限り患者本人を外に連れ出し、近所の人と触れ合ってほしいのです。外の環境に触れることは、脳への何よりの刺激になります。また、認知症の方が徘徊しても、近所の方がその存在を知っていれば、セーフティネットにもなるはずです。

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《介護をラクにする言葉がけ例・1》
食事は済んでいるのに、「食べていない」と言う時


<例>
・「はい、これどうぞ」(と少なめの食事を出す)
・「ごめんなさい、今からつくりますね」(と、台所に引っ込む)など

毎回「食べていない」と言う場合は、最初から小分けにして出すのも手。
また、介護者がその場から離れると、自分の言ったことを忘れて落ち着く場合もあります。