患者と接する時は、想像力を豊かにふくらませてほしい

この情動と肯定を大切にした話し方をするには、3つのポイントがあります。

1つ目は「相手の感情に巻き込まれない」こと。認知症の方が突然怒り出したら、介護者も嫌な感情に囚われます。でも、心を静めて、「これは認知症の症状によるもの」と客観的にとらえ、冷静さを取り戻してほしいのです。

2つ目は、「うまく〈逃げる〉」こと。会話がうまくかみ合わない時、冷静になれと言われても、そう簡単にはいかないのもわかります。そういう時は逃げていい。認知症は、わずか数分で直前の記憶をなくすことが多い。ですから、「あなたが私の指輪を盗んだ!」と怒り狂っていたとしても、数分後には忘れてしまい、なかったことになる。

そんな時は、「トイレに行ってくる」と会話を切り上げたり、「指輪はAさんにあげたよね」と、許される嘘をついたりしてもいいのです。介護者が疲弊しないためなら、前向きな逃げは許されます。

そして3つ目は、「想像力を存分に生かして会話しよう」です。かつて、認知症の方が問題行動を取る時の状態を、病院の看護部長が、「頭の中で、毛糸がからまっている」と表現していました。

こんがらがってしまった毛糸を無理に引っ張っても、糸はさらに固く絡まってしまいます。こういう場合は、あちこちに優しく手を入れてほぐしていくのが一番。頭の中の〈毛糸〉をほどくように、その原因を想像してみてほしいのです。

認知症の人は、悪意や企みがあって困った行動を起こしているわけではありません。失禁して汚れた服を隠しているのは、失敗を隠すためではなく、あとで自ら洗いたかったのかもしれない。もとをただせば家族や周囲の人たちへの気配りである場合もあるのです。

それに気づくことができれば、少しは気持ちが和らぎませんか? 患者と接する時は、想像力を豊かにふくらませてほしいのです。

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《介護をラクにする言葉がけ例・3》
汚れた衣類を隠していた時

<例>
・「大丈夫ですよ。誰にでもあることですから」
・「汚れた下着は洗濯かごに入れてくださいね」

排泄で失敗すると自尊心が傷つくと同時に、認めたくない、恥ずかしいという感情が湧くもの。責めたり大げさに騒いだりせず、まずは安心させてあげてください。